BAUES
“建築の民主化”で変わるものづくりの未来【VUILD秋吉浩気×NoMaDoS】

“建築の民主化”で変わるものづくりの未来【VUILD秋吉浩気×NoMaDoS】

2020.04.15 WED

これまでの建築業界の枠に留まらない”発想型”の建築事務所として、人や社会や時代とともに変化していく未来の「建築」を探っているクリエイター集団「NoMaDoS」。この連載では、建築という領域を基盤としつつも、これまでにない発想で活動している「建築業界の異端児」たちにインタビュー / 対談をしていく。

3回目となる今回は、建築テック系スタートアップ、VUILD株式会社のCEO、秋吉浩気氏を訪ねた。



近年レーザーカッターや3Dプリンタなどのデジタル機器を使ったものづくりは、身近になりつつある。そんなデジタルファブリケーションの領域を先導しているのがVUILDだ。3D木材加工機「ShopBot」を日本に導入し、2019年4月には家具づくりをすべての人に開放するサービス「EMARF」を開始した。秋吉氏が目指すのは、誰もがものづくりに参加できる“建築の民主化”だという。

今回のインタビューでは、秋吉氏率いるVUILDが描く「自律・分散・協調」のものづくりの未来に迫る。

秋吉浩気|KOKI AKIYOSHI
アーキテクト/メタアーキテクト。1988年大阪生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科にて建築設計を専攻。慶應義塾大学ソーシャルファブリケーションラボにてデジタルファブリケーションを専攻。建築設計・デザインエンジニアリング・ソーシャルデザインなど、モノからコトまで幅広いデザイン領域をカバーする。

誰もがものづくりを始められる時代が到来する



ーーNoMaDoS田中:VUILDは設計事務所でありながら、デジタルファブリケーションの分野で、日本にものづくりのプラットフォームを実装しようとしている点で異質ですよね。VUILDを起こすに至った原体験はどこにあったんですか?

ーー秋吉氏:
大学3年の時にクリス・アンダーソンの著書『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』を読んだのが原体験ですね。その本には「これからの時代は個人が力を持つことで誰もが簡単にものづくりを始められる」といった内容が書かれていました。それに感銘を受けて、大学の卒業設計で、新しいものづくりの拠点と場所について研究していたんです。

そんな矢先に東日本大震災を機に、3Dプリンティングが世間的な注目を集めはじめたこともあって、『MAKERS』で示唆されていたデジタルファブリケーションという新しいものづくりのあり方や新しい産業、ひいてはその先にある都市や街づくりが必ず現実化すると実感したんです。

——田中:自分のリサーチ内容と現実がリンクしはじめる……。すごくモチベーションが生まれそうなタイミングですね。それからどう動いたんですか?

ーー秋吉氏:
まずは新しい技術に触れてみようと思い、大学院でデジタルファブリケーションの研究を始めました。当時のデジファブは、色々な企業が共同研究という形で資金を出してくれている中、ビジョンメイキングに欠けている段階でした。研究室にはエンジニアが多く、デジタルファブリケーションが普及した後の構想を担えるデザインサイドの人間は、建築畑出身の僕だけだったんです。

そこで、コンセプトや、企業向けのハブ的なものが実装されていくプロセスなど、共同研究のフロントサイドを担当することになりました。それから、3D木材加工機「ShopBot」を大学に売って学費を稼いだりして、「とりあえず生きていけるかも」と思い始め2年が経ったという感じです。



ーー田中:なるほど。もともとハード面を売るところからビジネスが始まったということですね。

ーー秋吉氏:
今もハード面を売ることが事業の一つです。現在VUILDでは、ShopBotを全国の自治体や製材所、工務店などローカルサイドの団体や企業に販売していて、日本には合計50台が導入されています。

今掲げている「建築の民主化」のビジョンは、プロセスの中で徐々に言語されてきたものです。『限界費用ゼロ社会 〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』の「これからの時代はあらゆるものがシェアされ、限界費用がゼロになる」といった一節を読んだとき、自分の中の『MAKERS』的な文脈と結びついたんです。だったら、工業化されたものが民主化されるのは必然で、建築物を作るという行為自体も民主化されるに違いないと、予想が確信に変わりました。

ーー田中:専門化されていた「建築」が個人に解放されていく未来、とても納得感があります。ただ、ものづくりが自律分散していくにあたって、アイデアが創発される環境作りなど、踏まないといけないプロセスもあるかと思うのですが、どのようにデザインされているんですか?




ーー秋吉氏:
僕らが力を入れているのはシステムのデザインですね。コミュニティデザインは人の能力に依存していて再現性がないので、まずは使いやすいハードウェアを提供すること。人間はバグであるという前提で、デジタルやデザインのリテラシーが低い人にも、自分たちが構想したビジョンを実現できるツールを提供していきたいと思っています。

とはいえ、システム論だけでは人は動きません。それを使ってどんなことが社会に構想できるのか、一体どんな使い方をするのか。そこにデザイン論があり、私たち自体がラディカルユーザーとして使い方をデザインで提示していくことも必要だと考えました。だから、はじめにシステムがあって、その後に人間的なサポートをしていくという設計になっています。

「弱くて、小さくて、柔らかい」これからの建築家の在り方



「EMARF」ではユーザーが好きな家具のテンプレートを選び、オンライン上でデザインすることができる


写真6

デザインしたオリジナル家具はShopBotから出力できる

ーー田中:ShopBotを普及させるに当たって、toCにはEMARFを起点に訴求されていると思うのですが、toB側への施策として取り組まれていることはありますか? 

ーー秋吉氏:
ShopBotを使った施工事例を少しずつ増やしています。中でも小規模の建築として、富山県の利賀村(とがむら)に「まれびとの家」というローカルな住宅を建てました。地域の木材をShopBotで加工し、現場で組み立てる実証実験として、資金的にも材料的にも生産プロセス的にも自己完結できるモデルが完成したので、今後はこのモデルをシェアして共有資源にしていこうと思っています。


「地域の木材×伝統×デジタル」をコンセプトに、クラウドファンディングで1000万円以上集めた

ーー田中:伝統的な合掌造りをデジタルでつくるだけでもチャレンジングだと思うのですが、町の人たちを巻き込んでいくとなると、さらに未知数ですよね。どのようにプロジェクトを進めていったのですか?

ーー秋吉氏:
かなり具体的に方法論を設計しましたね。これまでの建築家像は、強くて、大きくて、硬いものだと思うんですが、僕が目指しているのは、弱くて、小さくて、柔らかいものです。

すべてをスタディし、トップダウンで決めたものを地域に持っていくという在り方ではなく、「自分たちはここまでやったけれど、これができていないから助けて欲しい」といった弱さや脆さを積極的に出していく在り方を目指しています。そうすることで、助けを求めるデザインプロセスが生まれて、自然と地域との距離がなくなると思っていて。

実際に「あいつら見てらんねえな」と地元の職人さんが集まってくれて、その過程の中で、建築が出来上がっていきました。それは、日本古来の集落や民家の成り立ちをかなりショートタームにしたもので、最終的に出来上がったものは私たちの経験や想像を超えているんです。

作家主義的に自身で完結せず、弱さを露呈し、巻き込んで、「あの人たちを支援したいな」という雰囲気感をデザインすることも一つの設計だと思っていて、今はそういうプロセスから生まれるものづくりが面白いと思っています。



ーー田中:なるほど、設計の過程から問い直すことで建築そのもののあり方も変わってきそうですね。

ーー秋吉氏:
どちらにせよ、ここに何かを建てたいというビジョンと熱量は絶対に必要だと思います。月に一回しか地域に出向けない中で、それでもこの先に建築ができることで、この地域にどういうメリットがもたらされるか、誠意を持って伝えていったのがこのプロジェクトでした。

大切なのは、建築のプロセスすべてにおいてトップダウン的に決めていかないということ。そして、ビジョンとそのプロジェクトをやり遂げるという自信を見せること。少なくともローカルサイドでは、それらのことは建築の人たちがやっていくべきだと思っています。

「消費」により失われた「つくる」喜びを取り戻す

ーー田中:DIYブームなどのおかげで、ものづくりは身近になったとはいえ、なかなか全国レベルにまでは及んでいないように思えます。これからリテラシーを上げるために何が必要だと思われますか?



ーー秋吉氏:
やはり、一度自分で作るという体験ですね。作ってみて初めてわかることって必ずありますから。例えば、なぜその間取りで、その材料なのか、なぜこの木目はこの方向なのか。それは作ってみて初めて自分ごと化できることです。

今は消費という行動自体が、過程をすべてブラックボックス化しています。その成れの果てが今の世の中だと思うんですよ。だから、ものづくりの喜びを少しでも取り戻していきたいんです。対処療法的にではなく、長期的に回復していくための仕組みとして、ShopBotを使ったものづくりのシステムと、それをサポートしていく場所が必要だと思っています。

ーー田中: VUILDのこれからのビジョンとしてどのようなことを考えられていますか?



ーー秋吉氏:
短期的には、ShopBotを100台導入したいと思っています。また、実は日本の随所にはShopBot的な機械がたくさん眠っているので、そういうゾンビ化した加工機にアクセスし、生産拠点をスケールさせていきたいです。

長期的には、EMARFの海外展開を考えています。実は海外にはShopBotは1万台あるんです。海外にEMARFをリリースした結果、現在500くらいのテンプレートを海外の人たちに使ってもらっています。短期的には日本市場、長期的には海外に展開していく予定です。

EMARF自体は、CADもCAMも必要としない仕様になっていて、ツールは問わず、どんなデータを投げてもサーバー上にあるシステムがきちんと加工コードを投げてくれる設計になっています。最終的にはAWS(Amazon Web Services)のように、建築を作りたい人のためのクラウド工房の仕組みを、EMARFを用いればすべてパッケージで提供できるという状態を目指しています。そのための第一段階として、5月末に上述した家具のサービスの進化系として建築版のEMARFをローンチする予定です。現在はティザーサイトが公開されています。

ーー田中:まさに「建築の民主化」を進める大きな一歩ですね。設計事務所としてのVUILDはどうですか?



ーー秋吉氏:
設計の方では、シンプルに素材と大きさをスケールさせて、デジタルデータ上で、誰もがやろうとしてできなかったものをとにかくやっていくつもりです。例えば、これまではウォーターフォール型に分かれてしまっていた「構造設計」「設備設計」「施工計画」を、すべて設計の上流でシミュレーションして意匠設計にフィードバックしていくプロセスを考えています。最終的には、自分たち自身で材料を確保し、建築を作るという大きな産業に入っていきたいですね。


そのために、4月から大型の5軸加工機を搭載した建築工場をOPENさせました。また、EMARFのようにミドルウェア的な戦略をもって、ローカルサイドとメインストリームを繋げる領域に、いよいよVUILDが踏み込んで行くことになります。そのための宣言として、建築設計の規模の拡張、ならびに資金調達をしていくことになると思います。

ーー田中:今日お話をお聞きし、VUILDさんはデジタル、プラットフォーム、システムのデザインのアプローチによって、いかに広がりを持たせるかを探求されていて、やはりそこには「民主化」という意識が根付いているのを感じました。一人一人が主体的にアイデアを実現し、繋がりあい、そしてまた何かが生まれる、そんなクリエイティビティの化学変化を起こそうとする大きなビジョンを直接肌で感じられたのは、NoMaDoSにとって宝物になると思います。本日はありがとうございました!

・・・(対談ここまで)・・・

VUILDが描く「自律・分散・協調」のものづくりの未来。今は「専門」とされている建築事務所の役割や意義も、時代とともに変わっていくだろう。NoMaDoSはクリエイター集団という冠を掲げていることから、まず実験的なスタンスで世の中に事例を生み出し、気づきを与え、道標であることをミッションとしている。

VUILDが描くモノづくりの未来、NoMaDoSが描くコトづくりへの挑戦、お互いが重なり合うことでワクワクにあふれた社会が生まれていくような気がする。NoMaDoSの実験はこれからも続きます。


建築クリエイター集団 NoMaDoS
  • 建築クリエイター集団 NoMaDoS
  • 一級建築士事務所NoMaDoS
  • 建築士
  • www.nomados.co.jp/

「終わらない自由研究」をコンセプトに空想・妄想の建築を生みだす建築クリエイター集団。 一級建築士を中心に、コピーライター、マーケッター、デザイナー、翻訳家、僧侶(!?)などユニークなメンバーが集まり、「実験的建築」と「未来の人間生活」を日々研究・開発しています。